ぺいちゃんねる'16

続いてはこちらの曲。

母親にカミングアウトしたけどそのあともぼくは生きてます。

母親にカミングアウトをした。

「俺って……気づいてると思うけど。ゲイなんだよね」

と言った。5月の中旬のことだった。何日かは覚えていない。覚えていないということは、今ではカミングアウト自体はとくに重要なことではない、ということである。


暗くて狭い軽自動車のなかで、たばこと汗と血の匂いがぼくと母を取り巻いていた。
なぜそういう状況になったのかは面倒くさいので書かない。
ひとつだけ、実家を出ないといけないような状況だったから、とだけ書いておく。
書いておくが、今ではそのような状況ではないし、きっとぼくはカミングアウトをする必要がなかった、というのが今となってはの考えである。でもしてしまった。ずっと言いたかったんだと思う。心の中では。

母親は黙りこみ、一瞬顔を手で塞いだ。

泣き出すようなこともなく、「言ってくれてありがとう」なんて感動的なドラマみたいな言葉が返ってくることもなく、絞りだすような「ショック…」という言葉がぼくの耳に入ってきた。

そうだろうな、と思った。

実際のところ、母はぼくが中学生のころ箪笥に隠していた「G-MEN」や田亀源五郎のマンガを発見していたから、ぼくがそっちが好きなんだということは気づいていた。(我ながらものすごく嫌な発見だっただろうなと思う)でもそうじゃない、信じたくない、という気持ちのほうが強かったんだと思う。

ぼくが「ゲイだ」と口にしない限りは。

こんな昔の風習が残る閉鎖的な田舎で、せっかく大学にいれて良い会社に入って、でも会社を辞めて実家に帰ってきた、そんな息子がゲイだなんて!これからどうやって隠していくの?

と彼女は思ったはずである。
そしてぼくも思った。母親に言った時点で、それはぼくだけの問題ではなくなってしまったからだ。

母はどうしてそうなったのか、いつからそうなったのか聞いてきた。
ぼくは「わからないけどたぶん、」を毎回文頭につけて返事をした。
彼女はときに薄く笑いながら、「まぁいまは結婚しない人も多いからいいけど……けど」と言いながらドアをあけて「とりあえず今日は寝なさい」と言って家に帰った。

そのあと、とくに変わったことは起きていない。
家を出ていかなければいけない、みたいな緊急事態ではなくなって、ただ仕事をする毎日に戻っただけである。

母親との関係も変わりない。


でも、きっと母はもうぼくに希望を抱いてはいないと思う。

運動は苦手でも勉強はまぁまぁできて、地元では誇れるくらいの高校に進学して、知ってるひとならまぁまぁ頭良いと思ってもらえるような大学に進学して、みんなが知ってるような製品をつくっている企業に入社し、

そして結婚し、子供をつくり……


現実はそうはならなかった。ぼくは仕事を辞めた。そしてゲイなのだ。
ぼくは大好きな母親が誇れるような息子になりたかった。自慢の息子になりたかった。
いつでも褒めてもらいたかったのに。
それはもう叶わない。
いまでもそのことが悲しくて仕方がない。
でも隠したくなかった。嘘をついて生きていきたくなかった。大好きな母親には。
そしてぼくは大好きな母親に、嘘をつきとおしてあげられるようなやさしい男でもなかったんだな。


しかしよくよく考えると母は「ショック」とは言っても、ぼくのことをちゃんと受け入れてくれている(気がする)。
どんな人が好きか、とか、どんな恋愛をしてきたかとかは聞いてこなくても、ゲイの息子でも普通に接してくれる。それがとてもありがたい。母親って、なんか、すごいな。月並みな言葉しか出てこないけど。


そんなこんな、なことがあったので。
いま、ぼくはたぶん人生の岐路に立っている。
もしかしたら自分から家を出るかもしれない。地元を飛び出すかもしれない。それとも地元に残るかもしれない。

一度将来を考え出したら止まらないのだ。

この町でゲイとして生きていくのは辛すぎる。
でもこれまではずっと安定を求めてきた人生だったから、そこを外れて生きていくのが怖い。
跡取りでもあるし、実家の家業も忙しい。ぼくが出ていっても大丈夫だろうか、なんてことを考えたりもする。


しかし、ぼくが頭の片隅で望んでいたような生活は、夢は、恋愛は、この町にも、母の手にもないのだ。

……そんなことウジウジを考えながら、とりあえずいまは生きている。
これからどうやって生きていこうかな。生きていくのって大変だなあなんて思ったりしている。

もうすぐ26歳の夏がきます。
ぼくの未来が変わる夏です。


【PV】 cali/gari 青春狂想曲